野球の打順考察

男性諸君で、野球をプレイしたことのある人、あるいは野球観戦が好きな人であれば、打順というものの妥当性について一度は考えたことがあるだろう。日本人はなんとなく1番が出塁し、2番が走者を進塁させ、3番は打率の高い打者、4番は最強の打者、5番は長打力のある打者で走者をかえすといったような理想を信じている。しかし、アメリカの学者によれば、最強のバッターは通常3番に置くべきであり、選手の偏りによっては2番、4番に置くべきとのデータもあるそうだ。セイバーメトリクスなどの統計的な手法をどんどん導入しているアメリカと比べて、日本人の野球観というのはどこか古臭く、怪し気なセオリーに満ちている。「得点圏打率」といった少し考えただけでもあまり役に立つとは言えそうもない代物が重要視されたり、何故か9回のみを投げると決められた守護神と言われる好投手が7、8回のランナーの溜まったよりアウトカウント一つが貴重な場面で登板しないだとか、未だに理解しかねる概念が支配的な世界である。
そこで、野球を疑似的にシミュレートしてより打順の妥当性というものについて考えるためのRubyプログラムを作ってみた。
選手の潜在能力としては、タイムリーに今年の楽天の選手のものを用いてみた。

打順 名前 打率 本塁打 長打率 出塁率 OPS
1 高須洋介 .304 1 .382 .361 .744
2 渡辺直人 .276 1 .343 .360 .703
3 鉄平 .327 12 .504 .391 .895
4 山崎武司 .246 39 .515 .332 .847
5 セギノール .253 14 .443 .343 .787
6 草野大輔 .305 7 .411 .364 .775
7 中村真人 .270 3 .352 .318 .670
8 中谷仁 .200 3 .300 .281 .581
9 聖澤諒 .220 0 .237 .258 .495

この打順は、実際にプレイオフにおいて野村采配のもと、採用されたものである。僕の作ったシミュレータ上では、選手は実際にこの確率(実際は2塁打率、3塁打率などもインプット済み)でプレイする。試行する試合数は10万回程度とし、1試合における平均得点が高いものを優秀な打順とする。このプログラムを使うことにより、打順の良しあしはもちろん、それぞれの打者がどの程度チームの得点能力に寄与するのかであるとか、そこから有限なチーム資金からある成績の野手を獲得するのと、ある成績の投手を獲得するのではどちらがお得かなどを考える材料としても使えるかもしれない。
本当は9の階乗通り、全ての打順の組み合わせを試行したかったのだが、僕のPC性能では時間的に無理があるため、いくつか面白そうな打順をピックアップして、結果を比較してみることにする。お断りとして、シミュレータと現実の野球とで誤差を孕むものについて述べておく。このシミュレータでは、犠打、犠飛併殺打、盗塁、エンドラン等を考慮していない(ただしこれらは、セイバーメトリクスにおいて有効性の疑われる戦術などを含むため、僕自身はそれらを考慮しない点についてはそれなりに楽観的である)。また、それぞれの選手の走力をそれぞれ定量的に計測することが難しく(併殺打率や、盗塁数によって求めることも考えたが)、恣意性が入りこんでしまうために均一の走力とした。プログラム上はそれぞれの走力を設定可能なように作ってあるのだが、今回は全員が、2塁からシングルヒットでホームに帰還できる可能性、1塁から2塁打でホームに帰還できる確率はそれぞれ50%、1塁からシングルヒットで3塁までいける確率は25%として実験を行った。少なくとも一般的に打順を決定する際、走力を重要視するケースは多いため、是非とも各選手の走力を取り込みたいところだが正確なデータがないので、課題としておく。

野村監督の采配した打順(上述)による結果

平均得点:4.211370

なお、選手がシミュレータ上で収めた成績はこちらでチェックしていて、どれもほとんどインプットした能力通りの結果となっている。実際に去年の楽天の平均得点は4.152778であるので、それなりに近いシミュレート結果が得られていると思われる。野村監督の構築した打順は、OPSを基準として考えても、3番に最強打者が置かれているなど、自然な打順になっている。

※以下、名前の横の番号は野村監督が採用していた打順である

3番と4番を入れ替えた場合

元の打順 名前 打率 本塁打 長打率 出塁率 OPS
1 高須洋介 .304 1 .382 .361 .744
2 渡辺直人 .276 1 .343 .360 .703
4 山崎武司 .246 39 .515 .332 .847
3 鉄平 .327 12 .504 .391 .895
5 セギノール .253 14 .443 .343 .787
6 草野大輔 .305 7 .411 .364 .775
7 中村真人 .270 3 .352 .318 .670
8 中谷仁 .200 3 .300 .281 .581
9 聖澤諒 .220 0 .237 .258 .495

平均得点:4.20475

平均得点は低下。本塁打の多い山崎の後ろに鉄平を置くのはやはり非効率。なお、3番打者は4番打者より2%強、打順が多くまわるようだ。

出塁率

元の打順 名前 打率 本塁打 長打率 出塁率 OPS
3 鉄平 .327 12 .504 .391 .895
6 草野大輔 .305 7 .411 .364 .775
1 高須洋介 .304 1 .382 .361 .744
2 渡辺直人 .276 1 .343 .360 .703
5 セギノール .253 14 .443 .343 .787
4 山崎武司 .246 39 .515 .332 .847
7 中村真人 .270 3 .352 .318 .670
8 中谷仁 .200 3 .300 .281 .581
9 聖澤諒 .220 0 .237 .258 .495

平均得点:4.18985

これも少し落ちた。本塁打の多くOPSの高い山崎が下位打線に配置され、打点が大きく減ったのが痛かった。

OPSの高い順

元の打順 名前 打率 本塁打 長打率 出塁率 OPS
3 鉄平 .327 12 .504 .391 .895
4 山崎武司 .246 39 .515 .332 .847
5 セギノール .253 14 .443 .343 .787
6 草野大輔 .305 7 .411 .364 .775
1 高須洋介 .304 1 .382 .361 .744
2 渡辺直人 .276 1 .343 .360 .703
7 中村真人 .270 3 .352 .318 .670
8 中谷仁 .200 3 .300 .281 .581
9 聖澤諒 .220 0 .237 .258 .495

平均得点:4.18143

これまた微妙。やはりここでも山崎の打点の低下が痛い。

なんとなく良さそうな打順

元の打順 名前 打率 本塁打 長打率 出塁率 OPS
1 高須洋介 .304 1 .382 .361 .744
6 草野大輔 .305 7 .411 .364 .775
3 鉄平 .327 12 .504 .391 .895
4 山崎武司 .246 39 .515 .332 .847
2 渡辺直人 .276 1 .343 .360 .703
5 セギノール .253 14 .443 .343 .787
7 中村真人 .270 3 .352 .318 .670
8 中谷仁 .200 3 .300 .281 .581
9 聖澤諒 .220 0 .237 .258 .495

平均得点:4.23909

予想通り良い結果。まあ、それでもそこまでノムさん打線と大差ないけど。セギノールが5番ではなく、6番になっているのは、出塁率が低く、本塁打の多い山崎の後にホームランバッターを置くのは非効率では、と感じたため。

ダメそうな打順(OPS低い順)

元の打順 名前 打率 本塁打 長打率 出塁率 OPS
9 聖澤諒 .220 0 .237 .258 .495
8 中谷仁 .200 3 .300 .281 .581
7 中村真人 .270 3 .352 .318 .670
2 渡辺直人 .276 1 .343 .360 .703
1 高須洋介 .304 1 .382 .361 .744
6 草野大輔 .305 7 .411 .364 .775
5 セギノール .253 14 .443 .343 .787
4 山崎武司 .246 39 .515 .332 .847
3 鉄平 .327 12 .504 .391 .895

平均得点:4.07561

さすがにずいぶん悪化した。

ダメそうな打順(良い打者を分散して配置)

元の打順 名前 打率 本塁打 長打率 出塁率 OPS
9 聖澤諒 .220 0 .237 .258 .495
1 高須洋介 .304 1 .382 .361 .744
8 中谷仁 .200 3 .300 .281 .581
6 草野大輔 .305 7 .411 .364 .775
7 中村真人 .270 3 .352 .318 .670
4 山崎武司 .246 39 .515 .332 .847
2 渡辺直人 .276 1 .343 .360 .703
5 セギノール .253 14 .443 .343 .787
3 鉄平 .327 12 .504 .391 .895

平均得点:4.06452

予想通り、かなり低い数字を出せて満足。

総括、まとめ

打順なんてそれなりに組んであればどうでもいいや(最高の打順と、最低の打順を比較しても期待得点は0.2点も変わらない。それなりに組んであれば0.05の差すらほとんどつかない。)。少なくとも、打順を組み替えたおかげで勝った的なものはほとんど全てが結果論であると言えるだろう。ただし、2番バッターには右打ちの得意なものを選ぶとか、そういったものをシミュレート上では排除しているので、断言するとまではいかないが。でも、打率や出塁率と比較すればそれらはそんなに大きな要素ではないと思っている。そんなに驚くべき結果ではなかったけど、意外に打順による期待得点の変化というのは直感的にはわかりづらいから、面白かったんではないだろうか。


最後に、野村監督(野村克也)が引退された件について一言だけコメントしておくと、楽天の去年の成績は得点が598、失点が609で、今回の実験に使った打者成績も決して良いものではなく、このチームで2位を記録したのは驚異的な快挙と言える。これが野村監督の的確な采配によるものなのか、はたまた偶然によるものなのか(僕はどちらかというと後者を推す)はともかくとして、結果的に上手く戦ったのは事実であり、評価されるべき戦績であると思う。監督というポジションが、どの程度チームに影響を与えるものなのかはいまいちわからないし、マスコミに取り上げられ続けたぼやきが必ずしも正しいことを言っていたとは思わないが、たぶんそれなりにきっとある程度おそらくいい監督ではあったんだろうと思っている。バイバイのむさん。